NASのデータ保護に最適なRAIDレベルは? 2025年版
RAIDの構成を考えるとき、多くのユーザーが似たところで足を止めます。冗長性が必要なことはわかっている。RAIDレベルごとの概要も把握している。しかし、実際にどれを選べばよいかとなると、判断がつかなくなる。
RAID選びに「正解」はありませんが、誤った選択は明確に存在します。選んだ構成が、ある日突然ストレージ全体の足かせになる前に、今できる判断を確かなものにしておきましょう。
この記事でわかること
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RAID選定の本質は「3つのトレードオフ」
- 容量効率(RAID 5:75%) vs 安全性(RAID 6:2台故障耐性) vs 速度(RAID 10:最速)
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大容量ドライブ時代の新常識
- 8TB以上ではRAID 5の再構築リスクが急増。RAID 6/10への移行を推奨
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見過ごされがちな3大落とし穴がデータ保護を脅かす:
- パリティ型RAID特有のサイレントデータ破損(ZFS/RAID-Zならチェックサムで検知可能)
- SMRドライブのRAID 5/6使用時の再構築失敗リスク(CMRドライブ必須)
- 小ファイル処理時の著しい性能低下(RAID 5/6よりRAID 10が優位)
冗長性におけるRAID選択の落とし穴
RAIDレベルの選択に迷う理由は、単に選択肢が多いからではありません。本質的には、「冗長性」という言葉の中に、異なる価値観が紛れ込んでいることにあります。
RAIDレベルは、故障したドライブの数で耐障害性を測るのが一般的です。RAID 5は1台、RAID 6は2台、RAID 10はミラーセットごとに1台の故障に耐えられます。ですが、この数字は静的なものでしかなく、実際の運用では再構築時の負荷や性能低下といった動的な要素が影響します。これらを無視すると、想定外のデータ損失リスクに直面しかねません。
RAID選択に影響を与える現実的なトレードオフ
RAIDの選択では、冗長性だけを比較しても結論にたどり着きません。ドライブが故障した際の再構築は、RAIDの信頼性を維持する鍵ですが、RAIDレベルによって負荷や性能への影響が異なります。
RAID 5とRAID 6:再構築時の負荷と危険性
RAID 5は1台の故障に耐えられますが、再構築中に別のドライブが故障するとデータが失われます。ドライブ容量の増加に伴い、再構築に時間がかかるようになり、その間に別の故障が起こる可能性が上がっています。このため、RAID 5の信頼性は以前ほど高くありません。
RAID 6は2台の故障に耐えられるため、再構築時のリスクは軽減されます。とはいえ、再構築には大きな負荷がかかり、NAS全体の性能が落ちることがあります。さらに、RAID 6はRAID 5より計算負荷が大きく、CPUやメモリへの負担も増えます。時間と性能のバランスを慎重に考える必要があります。
RAID 10:冗長性と容量の妥協点
RAID 10はミラーリングとストライピングを組み合わせ、高い冗長性と優れた性能を実現します。ただし、容量効率が50%と低く、ディスクの半分しか使えません。たとえば、4台のドライブならRAID 10では2台分しか利用できない一方、RAID 5では3台分、RAID 6でも2台分が確保できます。
容量とコストのトレードオフ
RAIDレベルは利用可能な容量とコストに直接影響します。以下は、4台の4TBドライブを使用した場合の比較です。
RAIDレベル | 利用可能容量 | 容量効率 | コスト(日本円/TB)※ |
---|---|---|---|
RAID 5 | 12TB | 75% | 約10,000円 |
RAID 6 | 8TB | 50% | 約15,000円 |
RAID 10 | 8TB | 50% | 約15,000円 |
※ ドライブ1台30,000円で計算
ポイント
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RAID 5:
容量効率が75%と高く、コストパフォーマンスに優れます。ただし、再構築時のリスクを考慮する必要があります。 -
RAID 6:
容量効率は50%ですが、2台故障耐性が強み。将来の拡張も比較的容易です。 -
RAID 10:
性能面で優れるが、拡張にはミラーセット追加が必要でコストが増します。
見過ごされやすい考慮点
RAIDの選定は、冗長性や容量効率といった明示的な比較に目が向きがちです。ただし、NASの安定運用を考えるなら、そこに現れない条件にも目を配る必要があります。
サイレントデータ破損への備え
ハードディスクの不良セクタや経年劣化によって、読み出されたデータが破損していても、RAIDはそれを正しい情報として処理することがあります。これが「サイレントデータ破損」です。特にパリティ型RAIDでは検出手段が限られ、定期的な整合性チェックや別途の検証手段が求められます。
これに対して、ZFSやRAID-Zはチェックサムによる整合性の検証と自動修復機能を持ち、データの長期保存用途において安定した結果を残しています。ファイルの保管年数が長くなる用途では、検討の価値があります。
SMRドライブとの相性
市場にはSMR(Shingled Magnetic Recording)方式のHDDが存在しますが、これをRAID構成に混在させると、予期しない性能低下や再構築の失敗が起きることがあります。とくにRAID 5や6では、ランダムな書き込みが頻発するため、SMRの特性と正面から衝突します。
NASにはCMRドライブを選びましょう。特にRAID 5や6を検討している場合、SMRは避けるべきです。
小ファイル性能への影響
RAID 5や6では、パリティ計算の都合上、小さなファイルを多数扱う場面で書き込み速度が著しく低下する傾向があります。バックアップデータの保存、動画編集、写真管理など、大容量のファイルが中心であれば問題になりませんが、Webサーバやデータベース用途のように細かな更新が頻繁に発生する環境では無視できません。
RAID 10はこの点で有利です。ミラー構成による高速な書き込みが可能で、パリティ処理が不要なため、小ファイルを多く扱うNASとの相性が良好です。
ハードウェア要件の影響
RAID 6やZFSを安定して運用するには、一定のメモリ容量とCPU処理能力が必要です。とくにZFSでは、キャッシュ領域(ARC)として十分なRAMを確保しなければ、整合性チェックやスナップショット機能が機能不全に陥る可能性があります。
RAID 6の場合: メモリ4GB以上、クアッドコアCPUが目安です。RAIDの安定運用にはハードウェアの性能が重要であり、特にNAS本体の選定も慎重に行う必要があります。たとえば、処理能力や拡張性に優れたモデルを知りたい方は、UGREENのNASストレージ製品一覧を参考にすることで、用途に合った構成が見えてくるでしょう。
RAID最適解の整理
RAIDの特性を正確に把握していても、用途に応じた選択ができなければ、実際の運用では支障が生じます。以下は代表的なNAS環境と、それぞれに適したRAID構成の例です。
小規模ホームNAS(2〜4ベイ)
写真や動画の保存、PCのバックアップが主目的であれば、RAID 1が現実的です。2台構成で構築でき、片方のディスクが壊れても復元が可能。管理もシンプルです。
4ベイを用いる場合、容量を重視するならRAID 5も選択肢に入ります。実効容量を確保しながら一定の冗長性を持たせられますが、再構築中のリスクを考えると、定期的なバックアップは別途必要です。
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中規模以上のホームNAS(4〜8ベイ)
データの種類が多様になり、複数人で共有するような用途では、RAID 6またはRAID 10が検討対象になります。
RAID 6は、ドライブ2台分の容量を冗長性に使う代わりに、高い耐障害性と拡張性を持ちます。6ベイ以上の構成では、容量効率と安全性のバランスが取りやすくなります。
一方、RAID 10は速度と信頼性に優れています。仮想マシン、開発環境、カメラ映像の保管など、読み書きの頻度が高い用途に適しています。容量効率は落ちますが、再構築時間の短さと安定性を重視する場合には有力な選択肢です。
高性能ホームNAS(小ファイル中心・速度重視)
RAID 10が最も安定した結果を出しやすい構成です。大量の小さなファイルを扱う用途では、パリティ演算のないミラー構成が明確な利点になります。RAID 5や6では、同じ用途で著しい速度低下が生じる場合があります。
このような構成では、ドライブの性能やNAS本体のI/Oバスにも影響を受けやすいため、SATAよりもNAS対応の高耐久HDDを選ぶと効果的です。
RAIDレベルの選定は、性能や冗長性といった軸だけでなく、用途と運用期間まで見据えた判断が求められます。構成を組む前に、自分の使い方がどのタイプに近いのかを確認し、それに応じた選択肢を選ぶことが、長期的な安定につながります。