NASの騒音対策ガイド:HDD・ファン・振動を切り分けて静音化
NASは便利です。自宅のどこからでもファイルにアクセスでき、仕事のバックアップも自動でこなしてくれる。小さな箱に多機能が詰まっているから、家庭オフィスに導入する人も増えています。(詳細を読む:NASってなんだろう?) しかし、意外と見落とされがちなのが、NAS(ネットワーク接続ストレージ)の動作音です。そのノイズが作業の妨げになることがあります。
知見:
- NASの動作音は、HDDの回転・シーク音と冷却ファンの風切り音が中心で、設置面や筐体に振動が伝わると「ブーン」という低音が強調されます。
- 静音化の第一歩は、うなり/カチカチ(HDD)、シューッ/キーン(ファン)、響く低音(振動・共鳴)というように「音の種類」で原因を切り分けることです。
- 家庭オフィスでは、7200rpmより5400rpmのNAS向けHDDを選ぶと、静音性と運用の安定性を両立しやすくなります。
- ファン騒音は、吸気詰まり(ほこり)や温度上昇で回転数が上がることで増えやすく、清掃とファン設定(静音プロファイル)の見直しが効果的です。
- 置き場所の見直しや防振材で振動を分離し、必要に応じてSSD活用や別室設置も組み合わせると、性能を落とさず体感ノイズを下げられます。
NASのノイズを理解する
NASの動作音は、主にHDDの回転・シーク音と、冷却ファンの風切り音から発生します。さらに、設置面や筐体に振動が伝わることで「ブーン」といった低音が強調される場合もあります。
まずは「どんな音が、どこから、どんなタイミングで出ているか」を把握することが最短ルートです。原因が見えると、対策の優先順位も自然に決まります。
NAS内部の構造や各パーツの役割を押さえておくと、音の発生源を切り分けやすくなります。

ハードディスク:回転速度が静けさを左右する
NASに多く使われるHDD(ハードディスクドライブ)は、データを保存する円盤が高速で回転し、その上をヘッドが移動します。この動きが音を生みます。
一般的なNAS用HDDは「5400rpm」か「7200rpm」に分類されます。この数字は1分あたりの回転数です。7200rpmの方が処理は速くなりますが、そのぶん音も大きく、振動も増えます。
冷却ファン:静音設計と現実のギャップ
NASは連続で動くため、発熱もそれなりにあります。それを抑えるのが冷却ファンです。ファンの音は、回転数やファンの大きさ、温度センサーの反応速度などに影響されます。
問題なのは、この音が予測できないことです。ファンが静かなときは何も感じません。でも、会議中や夜中に突然音が立つと、心理的なストレスに変わります。
静音NASハードディスク選定の3ステップ
家庭オフィスに合う静かなNASを手に入れるには、製品スペックを見るだけでは足りません。音は環境や使い方によって大きく変わります。ただ、以下の3つを基準にすれば、迷いは少なくなります。
ステップ1:低ノイズのハードディスクを選ぶ
NASに入れるHDDは静音性の要です。特に高速なモデルは音が大きくなりがちです。
5400rpmのハードディスクを選ぶ
ハードディスクの回転速度が5400回転/分(rpm)のものは、7200rpmのものよりも静かです。家庭オフィスでの使用には十分な速度を保ちつつ、ノイズを抑えられます。たとえば、Western DigitalのWD RedやSeagateのIronWolf NASは、NAS用に設計された静音モデルとして知られています。用途に合ったNAS用HDDの選び方を押さえておくと、性能だけでなく静音性も考慮した構成がしやすくなります。
ノイズレベルの確認
ハードディスクの仕様に記載されているデシベル(dB)値をチェックしましょう。たとえば、WD Red 4TBはアイドル時で約20dB、動作時で25dBです。これはささやき声程度の音量で、気になりにくいレベルです。一方、通常のデスクトップ用ハードディスクは30dBを超えることが多く、気になりやすいです。
NAS専用ハードディスクの利点
NAS用に作られたハードディスクは、24時間稼働を前提に設計されており、振動や発熱が少なく、静音性にも優れています。普通のハードディスクはNASでの使用を想定していないため、振動が多く、ノイズが増える原因になります。
ステップ2:ファンと冷却方式を考慮する
NASのノイズはハードディスクだけでなく、ファンからも発生します。静音性を保ちつつ、適切な冷却を確保することが大切です。

低速ファンやスマートファン搭載モデル
ファンが付いている場合、低速で動作するファンや、温度に応じて自動で速度を調整するスマートファン搭載モデルを選ぶと良いでしょう。負荷が低いときは静かに保てます。 UGREEN NAS シリーズはすべてスマートファンを搭載しており、さまざまな設定が可能です。
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ファンのサイズと設計
大きなファン(例:120mm)は、小さなファン(例:80mm)よりも低速で空気を動かせるため、静かです。また、ケースの設計が音を抑える工夫がされているモデルを選ぶと、さらにノイズが減ります。購入前にユーザーレビューで静音性を確認するのもおすすめです。
ステップ3:設置場所と振動対策を工夫する
家庭オフィスでNASを使う人の多くは、性能や容量に意識が向きがちです。しかし、静音性に最も影響するのは、選んだ機種そのものよりも、置き方とその周囲の環境です。
見た目と配置で"静音性"が決まる
NASの設置場所は見た目で決まることが多いものです。本棚の一角、机の下、ルーターの横。配線がすっきり見える場所を優先するのは当然ですが、そこで発生する振動と反響音まで考えている人はほとんどいません。
木製の棚板は、ハードディスクのわずかな震えを共鳴させます。壁に近いと、ファンの音が反射して広がりやすくなります。高性能なNASであっても、設置環境が整っていなければ、静音設計の効果は半減します。
また、NASの足元に敷かれたゴムや吸音材の有無でも印象は変わります。音そのものを減らすのではなく、「音の伝わり方」を抑えるだけで、体感ノイズは大きく下がります。
温度とノイズは、関係がある
NASは放っておくと熱を持ちます。静音性を優先して風通しの悪い場所に置いたり、ファンの回転数を下げたりすると、内部温度はすぐに上がります。NASはそれに反応して、急にファンを全力で回し始めることがあります。これが、あの「突然うるさくなる」原因です。
静音性を保つために静かにしていたつもりが、かえって騒がしくなる。それだけでなく、高温状態が長く続けば、ハードディスクの寿命にも影響します。
静かに保ちたいなら、静かさだけを追いかけてはいけません。音と熱は引き合う関係です。そのバランスをうまくとることが、家庭オフィスでNASを使う上での大事なポイントになります。
すぐできる静音化チェックリスト(原因別)
ここからは、いま聞こえている音の種類に合わせて、優先度の高い対策から順に試せるように整理します。スペックを買い替える前に「切り分け」と「環境調整」を行うだけで、体感ノイズが大きく下がることも珍しくありません。
ノイズ発生源の特定:まずは「音の種類」で切り分ける
- うなり音/カチカチ音が中心ならHDD由来、シューッ/キーンならファン由来、ブーンと響く低音なら筐体や家具への振動・共鳴が疑わしいです。
- 異常なカチカチ音・ガリガリ音・ビープ音が続く場合は、ドライブ故障の可能性があります。NASのSMARTツールやベンダーの診断機能で状態を確認し、必要なら早めにバックアップと交換判断を行いましょう。
手軽に効く対策:置き方と固定で「共鳴」を止める
- NASを共鳴しやすい棚や机の上から移動し、脚の下に高密度フォーム/ネオプレンパッド/スピーカーアイソレーターなどを挟んで振動を分離します。
- ドライブトレイ、筐体パネル、レールなどすべてのネジを確実に締め付け、ガタつきがない状態に整えます。ゆるみがあると低音の共鳴が増幅されやすくなります。
ファン騒音の低減:温度を上げずに「回転数の暴走」を防ぐ
- まずは電源を落として安全を確保し、通気口とファン周りのほこりを清掃します(吸気詰まりは回転数上昇の原因になります)。
- NASの管理画面でファンプロファイルを「静音」にする、または回転数をわずかに下げつつ、温度が安全範囲に収まっているかを継続的に監視します。
- それでも音が気になる場合は、互換性を確認したうえで静音ファンへの交換を検討します。ただし、風量を過度に落とす改造は温度上昇につながるため避け、安定運用を優先してください。
ドライブと振動の調整:HDD由来の音を下げる
- うなり音が気になる場合、いま使っているHDDが7200rpmなら、次回の増設・交換時に5400rpmのNAS向けHDDも候補に入れると、体感ノイズを下げやすくなります。
- ドライブトレイと金属ケージの接触部にフェルト/ベルクロテープ/シリコングロメットなどを追加し、振動の伝達を抑えると低音の「響き」が和らぐことがあります。
- アイドル時間が長い環境では、設定でHDD休止(スピンダウン)を有効化すると、待機時の回転音を抑えられます。ただし、常時稼働のアプリ(例:メディアサーバー、コンテナ等)があると休止しない場合がある点は理解しておきましょう。
それでも気になるとき:配置の見直しとSSD活用
- 静音性を最優先するなら、アクティブな作業データや頻繁にアクセスする領域をSSDキャッシュに寄せることで、継続的なシーク音(機械的なアクセス音)を減らせます。
- 物理的に距離を取れるなら、NASをクローゼットや換気の良い別室に移動する方法も有効です。周囲を囲う場合は、通気性を確保して温度が上がりすぎないよう注意してください。
まとめ:静音NASの選び方は「五感設計」
静かなHDDを選ぶこと、冷却ファンの仕様に目を向けること、設置場所と振動への配慮。それぞれは小さな判断ですが、積み重ねると大きな違いになります。
気づかれずに静かに働き続けるNASは、家庭オフィスにとって頼れる存在です。毎日使うものだからこそ、音にも目を向けてください。音が気にならないということは、仕事に集中できているということです。
